『親王・諸王略傳』祥［祥益］

※	『天龍寺重書目録』乙貞治六年十月三日付六人部庄庄主・都官請文に「前鎌倉將軍家式部卿宮御孫子五辻親王家（御發體以後自被號祥益庵主）」と、また、『天龍寺重書目録』乙應永十七年六月廿七日付六人部庄本主次第に「前鎌倉將軍家式[部]卿宮孫子五辻親王家、自號祥益庵主」とあり、祥益が親王であったことが知られる。
※	親王であった祥益は、天皇の猶子となり、ついで親王宣下を蒙ったものと考えられる。『看聞日記』永享四年【一四三二】四月四日條に、「五辻宮ハ後深草院後胤也。代々、伏見院・花園院爲御猶子、御諱字賜之」とある。伏見院の猶子となって伏見院の偏諱を賜わったのは煕明親王である。煕明親王は、花園院の崩年、貞和四年（一三四八）に薨逝しており、花園院より若干年少であるとは思われるがほぼ同年代である。祥益は、この煕明親王の男子であると考えられる（下文「出自」を參照せよ）。よって、花園院の猶子となり、その偏諱を賜わったのは祥益であると推定される。從って、祥益の諱は「富ヽ」であると考えられる。
※	『皇親系』等、二次文獻には「富□王」「富國王」と見える。なお、「富國」とは、「□」を「國」の略字と誤ったことによるものであろうか。

※

『天龍寺重書目録』乙「貞治六年十月三日付六人部庄庄主・都官請文」に「前鎌倉將軍家式部卿宮御孫子五辻親王家（御發體以後自被號祥益庵主）」と、また、『天龍寺重書目録』乙「應永十七年六月廿七日付六人部庄本主次第」に「前鎌倉將軍家式[部]卿宮孫子五辻親王家、自號祥益庵主」とあり、久明親王の孫の「五辻親王家」が、出家の後、「祥益庵主」と號していたことが知られる。

※

『天龍寺重書目録』乙永和三年八月十五日付沙門祥益讓状に、「爲故兵部卿親王【煕明親王】御菩提」とあるため、久明親王の孫にして五辻宮親王である祥益は、煕明親王の男子であると推定される。

●

花園院（富仁）の猶子となり、その偏諱を賜わったと考えられる。

◎	『看聞日記』永享四年四月四日
※	上文「俗名」をも參照せよ。

●

貞和四年（一三四八）末以降に親王宣下を蒙った可能性がある。

※	赤坂恒明「〓【晶灬】王考」712頁註(15)

●

出家。「沙門祥益」「祥益庵主」と稱す。

●

丹波國六人部荘を、子の「安位若宮」（周勝）に譲渡したが、周勝は入寺の際、六人部庄を金剛院に寄進した。そのため、春屋妙葩が幕府に交渉し、貞治六年（一三六七）十月三日、六人部庄は、「故兵部卿親王」即ち煕明親王の菩提のためとして天龍寺に寄進されることとなった。

◎

『天龍寺重書目録』乙「貞治六年十月三日付六人部庄庄主・都官請文」

一、丹波國六人部庄事、前鎌倉將軍家式部卿宮【久明親王】御孫子五辻親王家（御發體以後自被號祥益庵主）、雖有御讓與安位若宮【周勝】、御入寺之間、被相副調度・御文書等、所有御寄進于金剛院也。爰長老（春屋和尚）、被申談於武家、被寄附于天龍寺訖。然者替地事、萬一令參差者、毎年以貳百貫文料足可令備進、更不可有懈怠之儀。將又自餘御領公券等相交一紙中之上者、自然御沙汰之時者寺家可出帶。若背此旨有遺【違】變之儀者、當寺住持并知事等可被訴公方之状、如件。
　　　貞治六年十月三日　　　　　　　庄主祖承在判
　　　　　　　　　　　　　　　　　　都官（【左傍注】修造）昌能在判
　　　　　　　　　　　　　　　　　　都官周惕在判
　　春屋和尚
　　　　住持在判

◎

『天龍寺重書目録』乙「永和三年八月十五日付沙門祥益讓状」

一、丹波國六人部庄事、雖讓與周勝御房、爲故兵部卿親王【煕明親王】御菩提、天龍寺寄附畢。仍毎年貳百貫文可有沙汰由、春屋和尚請文如此候。然周勝御房世去候上者、彼御請文并周勝御房状相副、讓與所幸宮【久世】、如件。
　　永和三年八月十五日　　　　　　　沙門祥益在判

●

周勝が死去したために、六人部荘は、「五辻親王御方」即ち祥益に返進された。そのため、祥益は、永和三年（一三七七）八月十五日、六人部荘を「幸宮」即ち久世[王]に讓渡した。

◎

『天龍寺重書目録』乙「永和三年八月十五日付沙門祥益讓状」

◎

『天龍寺重書目録』乙「應永十七年六月廿七日付六人部庄本主次第」

一、六人部本主次第。
　前鎌倉將軍家式[部]卿宮【久明親王】孫子五辻親王家、自號祥益庵主、御子周勝侍者死去後、御讓文書等五辻親王御方ニ被返進。其後御子幸宮、御名久世御方ニ御讓。其後舍弟下宮、御名宗璨御房ニ御讓。自其御方南禪寺正眼院ニ御寄進也。
　　應永十七年六月廿七日

●	『稿本後深草天皇實録』八一五～八一六頁「皇曾孫祥益」
●	『皇室制度史料皇族四』二二～二五頁
●	赤坂恒明「〓【晶灬】王考 ── 建武期前後の傍流皇族をめぐって ──」（阿部猛編『中世政治史の研究』（日本史史料研究会論文集)、狭山、日本史史料研究会企画部、二〇一〇年九月、693～716頁）712頁註(15)