『親王・諸王略傳』萬［萬喜］

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文政十一年（一八二八）正月七日生。

「萬喜宮」

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天保三年（一八三二）十月十八日、信濃國善光寺大本願第百十六世徴譽智昭上人の附弟となるべく、源朝臣通明［久我］の實子となる。

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天保四年（一八三三）二月、信濃國善光寺に下向。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」二頁

･････御六才の春、雪なほ積る二月の半ば遠きあづまの信濃をも御いとひなく都の空を後にして遥々木曾路を善光寺に御下向あそばさる、此時善光寺一山の僧尼ならびに長野町の役人その他信徒皆、丹波島の渡まで御出迎へあり、いたいけなき稚兒輪の振袖姿を拜して思はず涙を催せりと今も故老の語り草に殘る。

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鷹司誓玉『善光寺大本願　鷹司誓玉上人自伝　流れのままに』176～177頁には、

　智昭上人は、善光寺で金堂開帳（今の本堂における御開帳）が行われた天保三年（一八三二）に大本願にお戻りになりました。萬喜宮はその年の年末に大本願にお入りになり、お年越しを済ませた翌四年の三月にお得度を受けて誓圓となられました。

とあり、萬喜宮の信濃入りは天保三年末のこととする。

誓圓

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天保四年（一八三三）三月四日（イ七日）、得度。

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天保四年（一八三三）四月、智昭上人と共に、江戸の靑山善光寺に入る。

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鷹司誓玉『善光寺大本願　鷹司誓玉上人自伝　流れのままに』177頁

四月には智昭上人と共に青山善光寺にお入りになり、寺社奉行、江戸大奥をはじめ、諸方面に附弟得度と出府の届けを出しました。

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天保七年（一八三六）十二月十五日、江戸、芝の増上寺明譽大僧正に就いて加行、十二月十九日、淨土宗の宗戒（しゅうかい）兩脈を傳授され、十二月二十六日、大本願住職繼承を承認する書状目録が幕府から屆けられる。

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天保八年（一八三七）五月、繼目御禮の參内のため上洛。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」三～四頁

此時御久々にて御兩親宮に御對顔あり最初のお言葉は「お堂でお經を讀むとお參りの人がお化けを投げる」といふ一語にて扈從の臈尼も思はず微笑され御兩親宮樣また興じさせ給ふ因みに尼公には金錢をお化けと呼ばれ生涯お手を觸れさせられなかつたと承る。

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天保八年（一八三七）五月二十二日、參内。

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天保八年（一八三七）五月二十四日、善光寺上人號を宣下される。

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天保八年（一八三七）七月二日、善光寺大本願の住職、および、大本願末寺の江戸靑山善光寺の兼務を仰せ付けられる。

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信濃國善光寺金堂開帳中の弘化四年（一八四七）三月二十四日夜、大地震によって生じた火災により、信濃國善光寺大本願および二王門が燒失。誓圓は靑山善光寺に滯在中であったが、以來、江戸靑山善光寺に居住する。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」六～七頁

それより尼公には大方の月日を江戸靑山の善光寺に過ごさせ給ふ、こは大本願は淨土宗なるにも拘らず元文五年二月幕府より天台宗日光門主支配の旨申渡され、それ以來事毎に壓迫を加へられ一方には又、德川家大奧御皈依につき江戸常詰めを賴み參らする旨の内儀御沙汰を蒙り、慶應三年十二月日光門主御復飾迄は靑山善光寺に御滯留あそばさる。

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弘化四年（一八四七）十月、大本願が再建され、嘉永六年（一八五三）七月、鐘樓堂が、元治元年（一八六四）八月、二王門が再建された。

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慶応三年（一八六七）十二月、信濃國善光寺に歸住。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」七頁

此月、日光門主御廢止と共に大本願は他宗の覉絆を脱することを得て尼公には直に信州に御皈山、･････

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慶応四年（一八六八）二月、「天機を伺う」ため上洛。京都に滯在。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」七～九頁

･････四年春には御一新仰出され、二月天機奉伺の爲め御上洛、參内。
　御道中は松代藩士三十人拔身の鎗を捧げて御警固申し上ぐると雖も、尚大本願直屬の武士も入用なればとて譜代の小作人七瀨なゝせの二三男十數名を狩り出して武士に仕立て共に京都へ伴へる所、禁中に於ても專ら薩長土肥の藩士のみにして禁衞士に不足を告ぐる折柄とて「大本願の家來とあるからは心おきなし」と小作人の二三男の急拵へしたる俄侍にわかさむらいをその儘、禁裏守衞士に採用せられ後年明治天皇東北御巡幸の砌は從何位の威嚴もの々々しく長野市に來り大門町だいもんちようを靜々と邌ねり行くを見て「七瀨なゝせの小作人の忰せかれ何某なにがしが行ゆくよ」とて耳語じごせりと今も尚、世にも珍らしき事に語り傳ふ。
　此年七月江戸を東京と改め八月明治天皇御即位御大禮を行はせられ十月東京に行幸あり、此間に於て尼公には家來柄澤からさは彦太夫ひこだゆうを以て伏見宮用人赤松大進、眞田藩北澤きたざわ幟之助のぼりのすけ等と計り善光寺統轄の儀を太政官に願出づと雖も御一新政務多端の故を以てその儘に差置かる。

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明治元年（一八六八）十二月十六日、大阪阿彌陀ヶ池の和光寺（大本願末寺。現住所、大阪市西区堀江。通稱「あみだ池」）の住職を兼務。和光寺に移る。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」九頁

十二月十六日大阪阿彌陀ケ池和光寺わこうじを御兼務につき京都より大阪に御移轉あり明治二十八年迄お住居遊ばされ信州善光寺には御弟子、大炊御門おほゐみかど誓薫せいくん尼を副住として法務を、淸水しみづ順平じゆんぺいを執事として寺務を共に御委任、唯七年目毎に行ふ大開帳の折にのみ御皈山の例なれば一に大阪樣と呼び參らす。

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明治六年（一八七三）二月二日、敎導職七級試補。

久我誓圓

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明治八年（一八七五）六月、久我通明の養女として久我家に入籍。

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明治九年（一八七六）三月、權少敎正に補される。

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明治十一年（一八七八）十二月二十六日、權中敎正に補される。

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明治十五年（一八八二）一月二十八日、中敎正に補される。

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明治二十八年（一八九五）二月、京都得淨明院（大本願別院）を創建、開山となる。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」一六頁

･････總本山知恩院に於ても宗祖御忌奉修の際には華頂宮御縁故を以て乘輿にて御入山、古例の大法要を嚴修ごんしゆう遊ばされその功勞に據り知恩院より華頂門主舊邸跡を大本願別院として尼公に賜り明治二十八年得淨明院とくじょうみょうゐんを御創建、開山と爲られ大阪より御移轉遊ばさる。

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明治二十八年（一八九五）三月、得淨明院住職を兼務。得淨明院に移る。

※	明治三十四年（一九〇一）四月、得淨明院本堂落成。明治四十年（一九〇七）九月、得淨明院客殿落成。

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明治二十九年（一八九六）十二月五日、正僧正となる。

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明治三十三年（一九〇〇）九月十五日、大僧正となり、「大本願中興」となる。

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明治三十五年（一九〇二）四月八日、大本山増上寺興隆會名譽會員に推薦される。

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明治三十九年（一九〇六）五月、參内。

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明治四十二年（一九〇九）十月二十五日、司敎に任じられる。

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明治四十三年（一九一〇）十二月十二日、得淨明院において死亡。

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明治四十三年（一九一〇）十二月十六日發喪。八十三歳。

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明治四十三年（一九一〇）十二月十九日、知恩院山内一心院に埋葬される。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」一八頁

･････御墓おんはかは知恩院山内一心院境域けいゐきに七十坪を淸祓せいばつ御舟おんふねは桐、檜、松の三重とし御銘盤は泉石せんせきにて御棺ぎよかんの上部に奉安す、御銘盤に曰く
　久我誓圓尼公故一品伏見宮邦家親王第三王女前内大臣久我通明公養女文政十一年正月七日御誕生天保八年七月善光寺大本願御住職明治四十三年十二月十六日御遷化

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明治四十四年（一九一一）二月十二日、遺齒が善光寺大本願歴代上人墓地内に埋葬される。

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弘化元年の再度の上洛の際、兩親より短册を賜わった。

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一品邦家親王

わかれては山路いくへかへだつとも
心はおなじ友とかたらん

織君景曜光院

名殘あれやはる々々きぬる都をば
はやたち出る旅の別路

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廢佛毀釋に際し、誓圓は還俗の勸告を拒否し、善光寺の法燈を守った。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」一〇頁

然るに皇族の出家を許さざる旨の勅命は發せられ併せて廢佛毀釋の聲、朝野に喧しく三年七月には早くも戸隱山の神道に改宗するあり、松本藩は盛に寺院を破壞しつゝある旨の報道頻りに至る、而して尼公には「速すみやかに御還俗の上然るべき所に御縁組なさるべし」と達せられ、大本願十五坊に向つては「善光寺の年神堂は延喜式、にある水内みのちの諏訪神社で君等は實に神裔である即ち堂照どうしようは上社かみしや、堂明どうみやうは下社しもしやで堂童子の行事は純然たる神事である然るに佛敎は後から這入はいり込んで横領したものである其の證據には年神堂としがみどうの外ほかに本堂内に見るも中央には衣冠束帶の善光卿よしみつきよう木像を祀ろ如來は西庇に假住居ずまゐである」と説きつけ爲めに日夜評議を重ねて方途に迷ふ折柄、誓圓尼公には斷乎たる御決心を以て還俗を斥しりぞけられて申す樣よう「身に纒まとへる袈裟衣は之を取りも得うべしされど心に着つけたる袈裟衣をば如何にしてか取り得んや、剃刀かみそりを以て剃りたる黑髪くろがみは之を伸のばしも得うべし、されど心に剃りたる黑髪くろがみをば如何にしてか伸のばし得んや」と、爰に於てか善光神社よしみつじんじやの評議も尼公御還俗の勸説かんぜいも朝日に遇へる霜の如く一時に消えて跡方もなく、金堂如來前せんに開山善光よしみつ以來消えずの常燈明燦としていよ々々光を増す。
　かくして宮内卿は明治八年尼公の族籍を久我家に移すべき旨を達せられ又、一方金堂奧殿の年神堂は東方の丘陵城山じようやまに移して別に縣社となすべきを命じ來きたる。
　今日わが長野市が善光寺參詣の信徒に依てその繁榮の大半を維持しつゝある現状を見るにつけても誓圓尼公に一斷は實に善光寺一山は言ふも更なり我が長野市永遠の基礎を据ゑさせ給へるものにして市民の等しく、感謝措く能はざる所に屬す。

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椎尾辨匡「誓圓尼公を偲びまつりて」二七～二八頁

･････殊に復飾縁組等の慫慂に對しては、剃りたる頭髪も伸ぶべく、身に掛けたる袈裟もぬぐべくとも、心に剃りたる髪が伸ばされようか、掛けたる袈裟がはづされようかと仰せられた凛然たる御言葉多くの荒法師すら腰がフラ々々になつたあの時、高貴の御方で優しき女性であられても信仰と護法との爲に如何に凛然たるかが伺はれ何とも申樣もなきことである。
　實に我國の大難は崇峻の崩德と幕末の混亂とであるとも云へる。前者に對しては聖德太子が佛敎によりて民心の安定を策せられたのが建國千二百六十四年であつた、それから更に千二百六十四年經て紀元二千五百廿八年が明治元年で幕府の終末に次ぎて佛敎は全滅せんとする危機に際會した。この時尼公の如き高貴にして凛然たる護法の御方が盡させられたことは獨り善光寺を救つたばかりでなく、日本佛敎を救つたものであり、日本の文化を完うし眞實の國運を護られたものであり、又東方佛敎がこれからの世界に輝くことを思へば世界の文化を救ひ育てた御方と申すことが出來る。

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鷹司誓玉『善光寺大本願　鷹司誓玉上人自伝　流れのままに』180～183頁

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大本願との關係が深い、善光寺の塔頭「中衆」の諸坊を、明治三年（一八七〇）、淨土宗に復歸させた。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」九～一〇頁

　明治二年東京遷都に付き善光寺統轄運動も亦、東京に移り翌三年中衆十五坊主寶永訴訟の暴斷以來初めて大本願に戻らせられ尼公より篤き敎書を賜はる、言々血を以て綴られ句々涙を以て述べらる十五坊住職一同嗚咽して拜承、固く盡忠を誓ふ。

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鷹司誓玉『善光寺大本願　鷹司誓玉上人自伝　流れのままに』183～184頁

　同じ時期、大本願塔頭たっちゅうの十四坊が浄土宗にまとめられました。善光寺山内には多くの院坊があり、中世以後、中衆なかしゅう（浄土宗）、妻戸つまど（時宗）、衆徒しゅうと（天台宗）の三つのグループにほぼまとまっておりました。ところが徳川中期以降、だんだんと天台系の勢力が強くなりまして、三寺中のすべてが天台宗に改宗させられた時期もありました。誓圓尼公は本坊大本願と塔頭中衆との歴史的伝統を鑑みて、中衆すべてを浄土宗に復帰させたのです。大本願のあり方についても検討し、明治十一年から浄土宗の尼僧の名刹として、独自の立場を保つことを明らかにされたのでございました。

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明治六年（一八七三）、女敎院の設立を計劃、敎部省に願書を提出。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」一四頁

･････明治六年、女敎院設立を御計劃、各宗管長を御遊説の上、敎部省に願書を提出せらる、即ち各宗管長連署の願書を見るに大要東京は靑山善光寺、京都は五條帒中庵たいちゆうあん、大阪は阿彌陀ケ池和光寺の三ケ所を女敎院と定め女敎師には信州善光寺大本願誓圓、同徒弟誓薫、京都村雲むらくも瑞龍寺ずゐりうじ日榮にちえい、奈良興福院こんぶいん德明とくめいの四名を推薦して「右は文筆秀才布敎傳道に致いたし勉強候そろて孰いづれも尼僧中傑出の者に候そろ」と稱揚す。盖けだし村雲むらくも日榮にちえい尼公は、誓圓上人の御實妹にして奈良興福院こんぶいんは大本願の縁故尼寺なればみな誓圓尼公の御方寸に據る。

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晩年は、日課、六萬遍の稱名を一日缺かすことがなく、質素に過ごしたという。

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」一五頁

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丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」一七頁

八十餘才の高齡に至るまで御身を奉ずること極めて薄く、ミルク、鷄卵さへも絶えて召されしことなく平常儉素にして持戒頗る御堅固に御病時と雖も纔に葛湯を攝らせられたるに過ぎず餘財あれば侍尼に命じて救恤の資に投ぜられ各地に天災地異の生ずる毎に何時いつも匿名を以て御送金せさせ給ふと承る。

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信徒から「生き仏さまそのもの」と尊崇された。

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鷹司誓玉『善光寺大本願　鷹司誓玉上人自伝　流れのままに』186頁

　私がこちらに参りました時には、直接誓圓上人にお目にかかったことのある方もまだいらして「尊容まことに温かく生き仏さまそのもの」という印象を語っておられました。ことさら難しい仏教学の講義や堪能なお説教などされなくても、ただお十念をいただくのみで、多くの信者の方々が心から感激し、帰依したと伝えられます。自己に厳しいお修行と、内面からにじみ出る慈母のような優しさが、周囲の人々を自ずから教化したようで、これこそ「身業説法しんごうせっぽう」と申すべきでありましょう。

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小林計一郎『善光寺さん』（長野、銀河書房、昭和四十八年（一九七三）三月初版、平成三年（一九九一）四月六版）二五五～二五六頁に、

　　大本願
　寺内浄土宗の本坊（尼寺）で、住職は善光寺上人です。寺域は約二千余坪で、明治二十四年の大火で全焼、いまの建物はそのごの再建です。善光寺上人は、戦国時代に百七代鏡空が甲府善光寺の開山となり、百九代智慶上人の時、上人号を勅許ちよつきよされました。また、江戸谷中に寺地を与えられました。百十三代智善上人の時、谷中善光寺を青山に移し、以後歴代上人はおもに青山善光寺に住んでいました。百十七代誓円上人は、伏見宮から入寺されました。

とある。

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小林計一郎『善光寺さん』（長野、銀河書房、昭和四十八年（一九七三）三月初版、平成三年（一九九一）四月六版）一九三～一九五頁に、

　大政奉還の前年、孝明天皇がおなくなりになり、大勧進は天皇の位牌を善光寺に納めていただくよう運動し、朝廷でもそれをお許しになるという内命があったので、慶応三年十月、大勧進住持清水谷義順僧正は、六十五人もの供をつれて上京しました。ところが十二月九日に王政復古の号令が発せられ、従来の政治向きのことはすべて御破算になってしまいましたので、義順らは翌年四月、空しく帰国しました。大勧進は明治元年十月にも、「宝祚ほうそ延長・国土安穏」の祈祷の巻数かんすう（御経を読んだという報告書）を毎年朝廷に献上したいと願い出ましたが、すげなく一蹴されました。新政府は仏教にはまことに冷淡でした。
　大本願は近世を通して大勧進の下風に立たされていましたので、この機会に勢力をもりかえそうとしました。ちょうど住持が伏見宮家出身の誓円上人でしたから、その方面から朝廷に働きかけました。【句点補】誓円は、文政十一年（一八二八）伏見宮邦彦【ﾏﾏ】親王の第三王女として生れ、六歳の時、大本願上人中御門智沼ちしょう【ﾏﾏ】の附弟となり、天保八年（一八三七）、十歳で大本願住持となりました。大本願上人は主として堂上家の出身で、江戸青山善光寺に住んでいることが多く、誓円もおもに青山におられましたが、慶応三年（一八六七）の末、善光寺に帰りました。慶応四年二月、大勧進住持の帰国といれかわりに天機奉伺のためと称して上京しました。上京後の誓円は、聖護しょうご院用人富井蔵人くらんど、伏見宮用人赤松大進、松代藩北沢幟之助などを通してさかんに要路へ働きかけました。
　このように、善光寺では、王政復古という大きな変動が、寺内の対立、抗争をひきおこしました。これは、善光寺だけでなく、高野山における学侶がくりょ方と行人ぎょうにん方との対立のように、寺内に対立する二勢力をもつ大寺では、たいてい同じような争いが明治維新直後におこっています。しかし、仏教に対する新政府の態度は冷淡で、寺院内部の勢力争いについての訴訟などにはあまりとりあいませんでした。
　慶応四年から明治三年十二月にかけ、大本願は数回、規格復古願を松代藩を通して新政府へ提出し、大勧進側はさかんにその妨害運動をしましたが、明治四年二月、関係書類一切が却下され、この争いは一時中断しました。

とある。

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小林計一郎『善光寺さん』（長野、銀河書房、昭和四十八年（一九七三）三月初版、平成三年（一九九一）四月六版）一九七～一九八頁に、

　善光寺は寺領千石を失い、大勧進、大本願も領主としての性格を失いましたが、それはかえって両寺の宗教活動にはプラスになりました。明治維新ご、政府の支援がなくなり、寺領からの収入がなくなったことは、かえって善光寺に純粋な布教活動に精を出させることになりました。江戸時代には大勧進の勢力が強かったのですが、明治維新ごは大本願が勢をもりかえし、現在に至るまで、寺内でことごとく対立をつづけています。この両寺の対立は、いろいろ感心しない面もありますけれども、またそのために、両寺互いに競争して布教に努力するという面もたしかにありました。
　ことに大本願は、明治維新当時の住職誓円上人が、宮家出身であったことを大いに利用し、尼宮様または尼公上人という名で、信者の尊信を集めるようになりました。
　幕末から明治初年にかけて、善光寺や山内院坊はかなり窮乏に陥りました。大勧進の出開帳、大本願の御親修（上人の出帳法要）などは、そういう事態を切抜けるために行なわれましたが、それは善光寺信仰を再びさかんにするに役立ちました。

とある。

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小林計一郎『善光寺さん』（長野、銀河書房、昭和四十八年（一九七三）三月初版、平成三年（一九九一）四月六版）二一二～二一三頁に、

　大勧進・大本願は江戸時代にも時々争いをおこしましたが、明治以後も、何度も法廷へ持ちこんだり、新聞を賑わすような争いをおこしました。
　まず、明治元年、大本願は「規格復古」を訴え出ました。江戸時代は大勧進に不当に圧迫されていたから、もとのように大本願の権利を認めてくれというのです。明治九年に、長野県から「寺務上ニ於テモ対等分掌当然」という政府の指令が通達されました。これはけっきょくいままでどおりにせよということでした。同十年には中衆が大本願に転属しました。大勧進はこれを不服として訴訟をおこしたが、これは通りませんでした。
　明治十五年に開帳があったので、両寺は一時和解して「明治十五年別時開帳執行仮条約書」という臨時の条約を結びました。
　しかし大本願は二十一年に「善光寺本堂法儀執行妨害解除訴」という訴訟をおこしました。善光寺本堂では、大勧進がわの天台宗の法儀と、大本願がわの浄土宗の法儀とが行なわれます。正月や彼岸の法会は両方が行なうわけですが、大勧進がわが不必要に長い時間をとったり、場所を占領したりして、大本願がわの法儀を妨害するというのです。
　この訴訟事件は容易に解決しませんでしたが、明治二十六年七月時の内務卿ないむきょう子爵品川弥二郎の仲裁で、辛うじて和解しました。･････

とある。

●	中村禮三編纂『善光寺中興誓圓尼公』（長野、大本願、昭和三年（一九二八）十月發行、昭和十三年六月改訂再版）
●	山口悦之助調査「誓圓尼公略譜」（中村禮三編纂『善光寺中興誓圓尼公』所收）
●	丸茂〓【王苟】喜「誓圓尼公」（中村禮三編纂『善光寺中興誓圓尼公』一～二二頁）
●	望月信亨「尼公上人御遠忌」（中村禮三編纂『善光寺中興誓圓尼公』二三～二五頁）
●	椎尾辨匡「誓圓尼公を偲びまつりて」（中村禮三編纂『善光寺中興誓圓尼公』二六～二八頁）
○	鷹司誓玉『善光寺中興誓圓尼公』（長野、善光寺大本願教化部、昭和五十四年（一九七九））
●	鷹司誓玉『善光寺大本願　鷹司誓玉上人自伝　流れのままに』（聞き書き、北原広子）（長野、信濃毎日新聞社、二〇〇九年二月）176～186頁
●	〔圖録〕善光寺大本願『近世以降歴代善光寺上人ゆかりの御品　Collections related to successive Zenko-ji Shonin since early modern times』（株式会社萌編集。大本山善光寺第121世鷹司誓玉上人監修）（長野、大本山善光寺大本願、平成二十年（二〇〇八）五月）26頁
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●	『系圖綜覽』所收『皇室系譜』「伏見宮」九五頁
●	『平成新修旧華族家系大成上巻』四五頁
※	『詰所系圖』「伏見殿」に不見。

●	明治二十四年（一八九一）、信濃善光寺大本願が燒失。明治三十五年（一九〇二）五月、大本願が再建される。
●	明治三十九年（一九〇六）一月十日、財團法人善光寺保存會が組織される。