『親王・諸王略傳』彦［彦仁①］

岩蔵宮 彦仁王

□ 彦仁王

　のち源朝臣彦仁

【稱號】
　「岩藏宮」

◎	『水無瀬宮文書』（『鎌倉遺文』第一八四七〇號文書）伏見院綸旨（永仁二年二月二日付）
◎	『實躬卿記』永仁三年九月七日

　「石藏三郞宮」

◎

『東寺百合文書』ヒ四十九之五十四（『大日本史料』第六編之十一、七三三～七三四頁）
白川本『東寺百合文書』二「^*山城上桂荘相傳系圖」（『鎌倉遺文』第一六八五四號文書）

順德院御子内、一宮承久廢帝【仲恭天皇】、二宮石藏宮【忠成王】。三宮四辻入道親王【善統親王】。石藏宮御子三郞宮【彦仁】云々。四辻宮被進御宇多院御書ニ石藏三郞宮者此御事也。

　「三郞宮」

◎

『一代要記』七「（第八十四）順徳天皇」皇子「忠成王」の子

彦仁（左中將、正三位、號三郞宮）

◎

　「石藏三位中將」

◎	『花園天皇宸記』元應二年九月六日壬午

　「岩藏三位中將」

◎	『園太暦』觀應二年十一月廿六日

　（四辻中將）「四辻の彦仁の中將」

◎	『増鏡』第八「あすか川」

【出自】
　忠成王［岩藏宮］の三男。
　順德院の孫。

※	山田本・楓山本・刻本『皇胤紹運録』は、「順徳院」の子「彦成王」の子に作る（山田本・楓山本「彦仁」、刻本「彦仁王」）。

【母】
　右馬頭藤原朝臣範能の女子

◎

『尊卑分脈』源氏、「忠成王」の子

┌王子加々
│母右馬頭藤範能女
│
│侍從
│右中將　正三位【脇前閣本「左中將」】
┼源彦仁【脇前閣本「彦仁」、同尻付「賜源姓」】──
│母同
│[【脇前閣本】永仁六三廿三薨]

【經歴】

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永仁二年（一二九四）三月二十二日、故和德門院（義子内親王）の御所で元服。

◎

『歴代皇紀』永仁二年三月廿二日

彦仁王於和德門院元服。加冠權大納言良實（宗イ）。理髪侍從二位公世。各束帶云々。

●

永仁四年（一二九六）十二月三十日、從四位下に直敍される。侍從。

●

源朝臣を賜姓される。

◎

類従本『紹運録』、「忠成王」の子「彦仁王」尻付

正三位右中將。賜源姓。

◎

『五代帝王物語』

關東かゝるひしめきのまきれに、思食樣や有けん。順徳院の宮【忠成王】御元服ありしをバ、人も何とやらん思たりき。さて、つひに親王の宣旨だにもなくて、其御子三郞宮とておはしましゝハ、源姓給はりて、彦仁とて、正應・永仁の比に中將になりて、上階などせられしかども、三位中將にてうせ給ひぬ。

※

『皇室制度史料皇族三』三〇五頁

●

永仁五年（一二九七）二月十九日、禁色を聽される。

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永仁五年（一二九七）四月十日、從四位上に敍される。

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永仁五年（一二九七）六月二十五日、從三位に敍される。

◎

『公卿補任』永仁五年、非參議從三位、「源彦仁」

「六月廿五日叙。廿六日侍從如元。十一月十四日正三位」。「順徳院孫。忠成王男。母。」
永仁四十二卅從四下。任侍從。同五二十九禁色。同四月十日從四位上。

●

永仁五年（一二九七）六月二十六日、侍從、もとの如し。

●

永仁五年（一二九七）十一月十四日、正三位に敍される。

●

永仁六年（一二九七）、左中將に任じられる。

●

永仁六年（一二九八）三月二十三日、薨逝。

◎

『公卿補任』永仁六年非參議正三位「×源彦仁」尻付

左中將。三月廿三日薨。

【七條院領をめぐる相論】

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善統親王［四辻宮］が傳領した七條院領十七箇所をめぐって相論。

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「石藏三郞宮」は、後深草院の近臣であった藤原朝臣康能（藤原信西の五世孫）と謀り、持明院統を後ろ盾として「四辻親王家領」（七條院領）を掠め取ろうと企てた。これに對し、善統親王は、大覺寺統に庇護を求め、七條院領を後宇多院に讓進し、訴訟での口入を依頼した。

※	布谷陽子「七条院領の伝領と四辻親王家」七六～八一頁

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藤原朝臣實躬は、この七條院領をめぐる相論において「奉行」を勤めた。なお、實躬は、自身の近江の所領をめぐる梶井門跡との相論を、彦仁の兄にあたる尊忠が梶井門跡になった時に申し出ており、全くの局外者であったというわけではない。

◎

『實躬卿記』永仁三年九月七日　寅

抑今日岩藏宮【彦仁王】爲對面予【藤原實躬】昨日御出京。御坐近邊。相構近時可立寄之由、有御命。仍參彼御所、入見參。七條院【藤原殖子】御遺領事、四辻宮【善統親王】與相論御事、當時予奉行也。件事爲被仰下也云々。

●

相論の經緯と先行研究等については、善統親王の當該項を見よ。

【源彦仁の遺領の傳領】

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「岩藏三位中將」即ち源彦仁の遺領の少なくとも一部は、後伏見院に傳領された。

◎	『園太暦』觀應二年十一月廿六日
※	金井静香『中世公家領の研究』（京都、思文閣出版、一九九九年二月）
※	久保木圭一「岩蔵宮彦仁王（源彦仁）について」42頁註(51)

【源彦仁の舊宅の傳領】

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源彦仁の舊宅は、彦仁の「息女」に傳領され、その後、彦仁の「息女」が景仁親王に「奉付」した。

◎	『花園天皇宸記』元應二年九月六日壬午
◎	『花園天皇宸記』元亨三年十月廿一日庚辰

【「四辻の彦仁の中將」と月華門院】

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『増鏡』第八「あすか川」に、「四辻の彦仁の中將」が月華門院（綜子内親王）のもとに「忍びて參り給ひけるを、基顯の中將【園基氏の男】、かの御まねをして、また參り加はりける程に、あさましき御事さへありて【あきれるような御事まであって】」、月華門院は「それゆゑ隱れさせ給へるなど、ささめく人も侍りけり」、と述べられている。
　彦仁は四辻宮でなく石藏宮であり、また、月華門院は、寶治元年（一二四七）十月九日に誕生し、文永六年（一二六九）三月一日に二十三歳で崩御しているので、永仁二年（一二九四）三月二十二日に元服した彦仁が月華門院のもとに通ったとする『増鏡』の記述を疑問視することができる。
　しかし、彦仁の父である忠成王は「四辻殿」とも呼ばれていたと考えられる。また、彦仁の父忠成王は一二二二年生、彦仁の子忠房親王は一二八五年生であり、假にその中間値を取れば、彦仁の生年は一二五三／四年前後ということになるので、年齡的に見て、彦仁が一二六九年以前に月華門院のもとに通うことは決して不可能でない。

【逸事】

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「土御門入道親王」（久良親王）が、愛息の源宗明（もと宗明王）の出世のため、中原朝臣師茂・師守に尋ねた勘例の中に、「平惟範・源彦仁等卿超越執柄歟事」がある。

◎

『師守記』貞和三年九月廿三日壬戌裏書

一　平惟範・源彦仁等卿超越執柄歟事
　　　件兩卿超越執柄事所見不詳。

【子女】
　□ 玄覺
　□ 承鎭法親王［梶井］【後宇多院猶子】
　□ 源朝臣忠房忠房親王「岩藏彈正親王」【後宇多院猶子】
　○ 守子内親王【後宇多院猶子】
　○（女子）

●

源彦仁の舊宅を傳領。景仁親王（後伏見院の男子）に「奉付」した。

◎

『花園天皇宸記』元應二年【一三二〇】九月六日壬午

陰雨降。今日、院御方【後伏見上皇】御幸石藏三位中將【彦仁】舊跡。當時、彼人息女、奉付景仁親王之間、以件由緒也。彼人當時管領也。

◎

『花園天皇宸記』元亨三年【一三二三】十月廿一日庚辰

晴。爲覽紅葉幸石藏。巳一點出御。予又准后【藤原經子】、女房一人在後、出車一兩。兼高卿已下又一兩連轅。午剋至石藏。大雲寺已下歴覽。紅葉尤有興。又至聖護院二品親王【覺助法親王】長谷房。地形尤有興。具親卿【堀川】山庄又見之。於故三位中將彦仁卿之舊宅（當時息女傳領之。即今日乘車後也。當時在景仁親王方也）聊開破子。亭主出短册之間、面々書哥。短册有二之間、予一首書詩了。即歸洛之便、至道昭僧正山荘。是經高卿【平】遺跡傳領云々。

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この彦仁の「息女」は、陽德門院（後深草院の女子）上臈の「岩藏宮孫女」と同一人か。

◎

『實躬卿記』正安四年【一三〇〇】八月二日癸亥

今夜陽德門院　御幸始也。･････
･････
出車人々不及下車。抑乘御車後上臈岩藏宮孫女云々。

【文獻等】

●	久保木圭一「岩蔵宮彦仁王（源彦仁）について ── ある傍系皇族の軌跡 ──」（『日本社会史研究』第一〇〇号、二〇一二年十二月、29～42頁）
●	『稿本順德天皇實録』五四三～五四四頁「皇孫彦仁王」
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更新日時： 2022.01.01.
公開日時： 2013.03.28.