『親王・諸王略傳』惠［惠春］

　藤原朝臣信子
　藤原朝臣信宗［大炊御門］の女子。
　實は藤原朝臣孝長（または藤原朝臣基親）の女子。
　もと、和氣朝臣郷子（和氣郷成の養子）。「伊與局」

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淸水正健『皇族考證』第伍巻（大正六年十二月帝室制度審議委員印行歟）一四〇～一四一頁に、

伊與局は、藤原基親の末女にして、和氣郷成の養女となり、稱光帝後宮に、臺所別當として奉仕し、應永三十三年十月二十一日、皇女を生みたる後、藤原實秀の養女となりしこと、上に出づ、（稱光帝年二十六、此の時、後花園帝は年八）然るに、看聞日記に據れば、同じ伊與局が、再び後花園帝に侍して、永享六年十月二十九日、（稱光帝崩後九年に當る）皇女を産みたる如く聞えて、怪しむ可し、然れども、民部卿三位（親子）は、始め龜山帝に仕へて皇子を生み、後亦其の孫後醍醐帝に奉侍して、護良親王を産みたる例もあり、但し紹運録に、この皇女母同_二成仁_一と見えて、御遊鈔に、成仁、御母和氣郷成卿女、皇年代私記に、成仁、母和氣郷子、號_二嘉樂門院_一、和氣郷成養子、臨_二讓位之期_一、爲_二大炊御門入道内府子_一、改_二姓名信子_一、歴代皇紀に、後土御門院、母后藤信子、（元郷子）前内大臣信宗猶子、實藤原孝長朝臣女、故和氣郷成三位猶子、三位死去之時、改_二養子_一、故保家（郷成子）朝臣猶子、又天皇即位後、改_二保家子_一、信宗公猶子、と見えて、前には基親實子、此には孝長實子と見えて、別人の如くにも思はる、かにかくに定めがたきまゝ、疑を存して後の考を待つ、

とある。

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永享六年（一四三四）十月二十八日、生誕。

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『看聞日記』永享六年七月十九日

勾當内侍【菅原茂子［東坊城］】御使而參。内裏宮伊與局【和氣郷子】（臺所別當。（【右傍】醫師）郷成朝臣猶子）懷妊、今月著帶。可爲來廿四日云々。･････禁裏樣【後花園院】（十六歳）早速御子出生、先以珍重也。

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『看聞日記』永享六年十月廿八日

聞伊與未無御産。

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『看聞日記』永享六年十月廿九日

晴。夜前姫宮御降誕之由、勾當【菅原茂子［東坊城］】告申。先以無爲珍重也。但非若宮之條、無念々々。

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祖父入道貞成親王に養育される。

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『看聞日記』永享六年十二月二日

･････抑勾當有状。姫宮此御所可被養育申、公方【義敎】へ伺申之處、是へ可被入申之由、被申云々。狹少計會旁雖難儀、公方御意之上者、先半領状之趣、御返事令申。

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『看聞日記』永享六年十二月十五日

内裏姫宮渡御。春日局【庭田重有女】、（【右傍】内裏）御乳人【庭田重有室】、今御乳人（新參）、郷成朝臣（布衣）御共參（･････）。御宮笥一獻分（千疋）給。千秋萬歳可養育申之間、祝着珍重無極。･････

● 永享七年（一四三五）三月十日、御色直。

● 永享七年（一四三五）十一月二十二日、御髪置。

● 永享八年（一四三六）六月三十日、不例。

● 永享八年（一四三六）十一月二十八日、御著袴・御魚味の儀。

● 永享十年（一四三八）十一月二十八日、貞成親王御所において御深曾木の儀が行われる。

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嘉吉元年（一四四一）八月、附弟として安禪寺に入室。喝食となる。

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『建内記』嘉吉元年五月七日癸卯

今日詣三寶院僧正【義賢】御房。令出座給。･････禁裏姫君【のちの惠春】（八歳。伏見宮【貞成親王】（御實祖父）令養申給）來月五日爲安禪寺御弟子、可有御入室之由、先日以左衞門督【正親町三條實雅】自室町殿【義敎】被申三寶院之由、今日令語給。安禪寺當住者三寶院御妹也。仍被傳申也。

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時の安禪寺主は三寶院義賢の妹。

● 嘉吉三年（一四四三）八月二十二日から長祿三年九月二日までの間に、得度。安禪寺主となる。

● 景愛寺住持となる。

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應仁の亂の後、聖壽寺に居住する。

◎	柳原本『八講已下法會部類』（宮内廳書陵部藏）所收『知法念佛假名日記』（『大日本史料』第八編之四十、六六～六七頁）

● 文明九年（一四七七）四月十五日、再び景愛寺住持となる。

● 延德元年（一四八九）十二月三日、不例。

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延德二年（一四九〇）十一月末より不例。

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『親長卿記』延德二年十一月廿九日

晴。參内。･････今日以伯二位（忠富）被仰下。安禪寺殿【惠春】（爲御兄弟）有御事者、可爲御輕服歟。予【甘露寺親長】申云。於黑衣之御方、不及是非之沙汰。其上近代御ヽ貯【錫紵】已下大儀之間、不及沙汰之由、申入了。

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『御湯殿上日記』延德二年十二月一日

あんせん寺殿【安禪寺惠春】おなし御とをりの　もし【ﾏﾏ】御申。むねあき【豐原統秋】御くすりまいるよしきこしめす。･････たけのうち殿【曼殊院良鎭】より、をり五かう・三か【三荷】まいる。あんせん寺とのへ三かう・二かまいらせらるゝ。

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『御湯殿上日記』延德二年十二月二日

あもし御所【安禪寺惠春】昨日の御くすりにて御けん【御驗】なるに、よへよりもとのことく御大事にて、たけた【竹田定盛】御くすりをまいるよし、御申。

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『御湯殿上日記』延德二年十二月三日

あんせん寺殿としみち【富小路俊通】御くすりにて、こよひハ御久しく御かすすくなきよし御申あり。二宮の御かた【尊傳親王】なる。あんせん寺とのへもなる。

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『實隆公記』延德二年十二月五日壬子

及晩參安禪寺殿。御不例之儀尋申之。

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『御湯殿上日記』延德二年十二月六日

あんせん寺殿いさゝか御けん【御驗】のよし御申。

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『御湯殿上日記』延德二年十二月九日

あんせん寺殿【安禪寺惠春】またこよひより御くたひれのよし申さるゝ。

● 延德二年（一四九〇）十二月一日、惠春の請願に依り、前大德寺住持春浦宗煕に正續大宗禪師の號が與えられる。

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延德二年（一四九〇）十二月十一日、示寂。五十七歳。

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『實隆公記』延德二年十二月十一日戊午

抑安禪寺宮（當今【後土御門】同胞御姉。舊院第一皇女也）今日申刻御入滅云々。春秋五十七歳。言語同斷、周章無比類。予去文明二年就少事有違叡慮之事き。舊院【後花園院】深被歎思食此事、可被申披之由、被申置此宮。遂被達天聽了。其高恩未報盡、已歸泉御之條、悲涙難乾者也。去五日參候之後、昨今不參入。慮外々々。恩顔遠隔、無常迅速。可嘆々々。御名字惠春、道號芳苑云々。

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『親長卿記』延德二年十二月十一日

入夜雪下。朝間參内。安禪寺殿御樣、無其資【憑】之由、申入了。･････今日午剋許、安禪寺殿御事切了（五十七歳）。當來資【憑】申入了。諸篇無御等閑事也。愁傷之。

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『蔭凉軒日録』延德二年十二月十一日

安禪寺方丈御他界。

◎ 『御湯殿上日記』延德二年十二月十五日

◎ 『春浦和尚法語』秉炬「前住景愛芳苑慧春禪師秉炬之語」（『大日本史料』第八編之四十、六二頁）

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延德二年（一四九〇）十二月十三日、千本寂淨院（聖衆寺の末寺）において葬禮。導師は春浦宗煕。

◎ 『實隆公記』延德二年冬紙背文書「十二月十五日付甘露寺親長勘返三條西實隆書状」（『大日本史料』第八編之四十、五九頁）

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『親長卿記』延德二年十二月十三日

晴。今日安禪寺殿御葬禮也（於千本寂淨院有此事）。計廻彼邊（門外）見物了。

◎ 『實隆公記』延德二年十二月十五日壬戌

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『親長卿記』延德二年十二月十四日

晴陰。今日［※安禪寺惠春］御拾骨云々（爲酉日滅日、不審々々）。御忌中始行云々。

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延德二年（一四九〇）十二月十五日、惠春の示寂を奏聞。この日より廢朝三箇日。

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『後法興院記』延德二年十二月十四日

安禪寺殿（【傍注】當君御姉）御事、御神樂中無奏聞之儀、今日達叡聞云々。不可有御錫紵之儀之由、兼日有其沙汰。

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『御湯殿上日記』延德二年十二月十五日

あんせん寺殿十一日に御ことあり。御神樂中はひろうなし。昨日ハ御とく日にて、けさ御寺より御申。おほしめしさためなからも、御あはれさもせひ【是非】なくおほしめす。けふより、はいてうのき【廢朝之儀】おほせつけらるゝ。御佛事の物千疋、まつまいらせらるゝ。はんしゆ院【般舟三昧院】にても御ふつしせらるゝへきにて御ようきやく【用脚】つけらるゝ。はう々々より御とふらひ御申ともあり。

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『後法興院記』延德二年十二月十五日

晴陰。安禪寺殿御事、以右兵衞督【西洞院時顯】申入禁裏并御寺畢。

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『實隆公記』延德二年十二月十五日壬戌

今日以書状安禪寺殿御事申入禁裏了。同愚状遣春首座【東川昌春尼】許弔申之。一昨日御葬禮云々。抑自今日廢朝三ヶ日可宣下之由、被仰頭中將【正親町三條實望】。此事就安禪寺殿御事也。･････
　延德二年十二月十五日　宣旨
　　依安禪寺宮御事、廢朝三ヶ日、宜令停止音奏警蹕。
　　　藏人頭右近衞權中將藤原實ー奉

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『晴富宿禰記』延德二年十二月十五日壬戌

安禪寺方丈【惠春】御事、内侍所（【傍注】三ヶ日）御神樂以後奏聞。無御輕服之儀、不及是非□□□□□□□□□不審□□□□□□□□□□□御時□□□□□

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内閣文庫藏『押小路文書』八十一

延德二年十二月十五日　宣旨
　依安禪寺宮御事、廢朝三ヶ日、宜令停止音奏警蹕。
　　藏人頭右近衞權中將藤原實望奉